平成14年度 広島大学理学部数学教室公開講座  
 
数学の基礎と展望
−数学のひろがり−

主催 広島大学理学部数学教室
共催 東広島市教育委員会
広島大学総合科学部数学教室
後援 広島県教育委員会
広島市教育委員会

1. 趣旨

 この公開講座は、大学公開事業の一つとして平成 4 年度に始めら れたもので、 今回が第 11 回目になります。数学は諸科学の基礎として重要な役割を果たしていま すが、 同時に創造性と自由な発想に富み、理論的な美しさを持っています。数学に親しみ、 その素晴らしさを広く共有していただくために、現在研究されている数学の基礎的な 考え方 の一端を分かりやすく紹介し、数学が常に生き生きと発展している様子を理解してい ただこう とするものです。今回も、数学の様々な研究分野から新しい題材を取り上げて、 新しい講師陣によって開催されます。また、講義の他に、「数学教室案内」、「折り 紙実技」と 特別懇談会「高校教育と大学教育の接点」(高校教員の方と大学教員の懇談会) を企画しています。

2. 実施期間

平成14年8月1日(木)、8月2日(金)

3. 実施場所 

広島大学理学部 E102 講義室 (東広島市鏡山 1-3-1)

4. 受講対象者

高校生(学年不問)及び数学に関心のある方

5. 募集人員 

約100名

6. 受講料  

無料

7. 講義内容の紹介

「1+1=0の数学:その計算機への応用」

                    広島大学大学院理学研究科・教授  松本 眞
 テレビゲームには「サイコロ」が登場する ことがあります。コンピュータは決められた 手順を実行するものですから、「サイコロ」 のようなあらかじめ決まっていない確率現象 をシミュレートするには意外な工夫がいりま す。このような、でたらめに見える数の列を 作る技術を「疑似乱数発生」と呼びます。古 くは、フォンノイマンが核反応のシミュレー ションをするために使ったのが始まりといわ れています。
 高速に、でたらめさの良い数列を作るのに は代数が利用されています。22/7を小数展開 すると3.142857142857142857...となり、周期 6の循環小数となります。355/113は周期112 の循環小数になります。この循環部分を疑似 乱数として使うことが50年ほど前から行われ ています。
 今世界で用いられている最新の方法では、 1+1=0の成り立つ世界での数学を用いて、周期 が2の19937乗引く1となるような循環小数を作 ります。これらについて高校生向きに解説します。



「折り紙の数理」

                    佐世保工業高等専門学校・助教授  川崎 敏和

第1部 折り鶴の数理
 折り紙は真四角の紙で折るものと、一般には考えられています。しかし菱形やはた 形の用紙でも綺麗に折ることができます。自然に、「どんな形の紙でも折れるのか?」 という問題が生じます。何の変哲もないこの問題が、意外にも豊かな数学的成果をも たらしてくれました。  本講座を通して概念の創出と調和を感じとっていただければと思っています。予備 知識は二次曲線の焦点程度。ほとんどは中学数学です。数学好きの高校生だけでなく 先生方も是非参加ください。

第2部 桜玉
 十数個の花がボール状にまとまって咲く桜があります。桜玉は、これを正二十面体 で表現したもので、同一パーツ30個を組み合わせて作ります。折り紙特有の造形で す。折り紙の醍醐味を堪能ください。


「宇宙から地球を見るための数理」

                    広島大学総合科学部・教授 西井 龍 映

地球環境を広域的に観測することを考えてみましょう。たとえばアマゾン川流域 で森林の面積がどのように時と共に変化しているかを調べることです。このような 目的には人工衛星から見たデータを利用することが最適です。ここで ``見る'' と は人間の目では見えない情報も含みます。たとえばモンシロチョウは紫外線の強さ を感知することが出来るため、雄は雌を容易に識別できます。衛星が搭載している センサ(地球を見る複数の目)も人間の目に見えない情報を観測し、種々の解析に 役立てています。 この講座では地球観測衛星の代表例である Landsat (ランドサ ット) について、衛星本体や観測システム、センサと利用分野を説明します。さら に衛星データを人間の目でみるための数理的な工夫、地表面を覆っている森林や住 宅地のようなカテゴリを衛星データから判別する場合の数理的な仮定(モデル化) に基づいた解析法を紹介します。


「金融デリバティブって必ず儲かるの? −世の中そんなに甘 くない−」

                    広島大学大学院理学研究科・助教授  岩田 耕一郎
市場には株式が一つそれと国債があり 取引は今日と明日それぞれ一回限りとします。 今日の株価はSで明日までの値動きはu倍に なるかd倍になるかのどちらかとします。 但しd<uです。 他方、国債は明日には利子が付きr倍になるとします。 もしu<rなら国債を買うのが文句なしに有利ですが、 空売りというのを使うともっとすごいことができます。 今日株式をn株空売りします、それで得た金で nSだけ国債を買います。 すると明日は空売りした株を買い戻す必要があるのですが、 国債を売って調達した資金rnSを使うことにします。 そのときの収支バランスは次のようになります。 u倍になったときは rnS - unS = n(r-u)S>0 で、d倍になったときは rnS - udS = n(r-d)S>0 です。 数式上は、リスクおよび元手なしに空売りする量 n を増やせば増やすほど儲かることになります。 注意してほしいのは株価がどちらに転んでも儲かり、 しかもあらかじめ金を用意する必要もないという点 でうまい話なのです。 市場はこういう抜け駆けを許さないように展開 されるべきというのが一つの考えです。同様に r < d も許されず、値動きは d ≦ r ≦ u を満たすべきと考えが進んでいきます。 これを押し進めるとオプション価格に対する 有名なブラック・ショールズの公式に至ります。 そこで使われる確率論を少しでも紹介できればと考えています。


8. 講師自己紹介

松本 眞(広島大学大学院理学研究科・教授)
小学生のころから数学が好きでしたが、それは 時代遅れの役に立たないマニアックな趣味だと思っていました。 先端科学での数学の非常な有用性を知り、「数学者」という 職業が健在であることが実感できたのは大学を卒業したあとでした。


川崎 敏和(佐世保工業高等専門学校・助教授)
1955年11月26日生まれ。佐世保工業高等専門学校助教授。  大学入学後折り紙を始める。代表作は、バラ、巻貝、桜玉ほか多数。1997年、折り 鶴変形理論で学位(数理学)を取得。  著書:「バラと折り紙と数学と」(森北出版)、「折り紙 夢WORLD」(朝日出版)


西井 龍映(広島大学総合科学部・教授)
パソコンへ音声で文章を入力することや、有料道路における普通車と軽自動車、 右ハンドルと左ハンドルの判別は、対象を測定したデータから、それが属するグル ープを推定する例です。このようなパターン認識については、いくつかの道具がありま すが私はデータの揺らぎが、ある確率的な規則に従うとの前提で判別をおこなう手法に ついて研究しています。


岩田 耕一郎(広島大学大学院理学研究科・助教授)
数理物理学への応用をめざして確率論を勉強してきました。 遅ればせながら最近話題の数理ファイナンスをかじっているところです。 ですからほとんど初心者です。 とんでもない勘違いをしているリスクを冒しつつ、 受けというリターンをねらったタイトルを付けてしまい 少々困っているところです。


9. 企画

1 日目講義終了後、次の企画を行います。

 ●「折り紙実技」 

また、ロビーにて

 ● ポスターセッション 「現代数学への誘い」

を期間中行います。これは、数学の最近の話題をパネルで紹介するもので す。

 2 日目講義終了後に、次の二つの企画を並行して行います。  

 ● 教室見学ツアー 

 ● 特別懇談会 「大学入試のあり方について」
     教員の方を対象とした高校教育と大学教育の情報交換のための特別懇談会
   (特別懇談会に参加ご希望の方は、申込書の参加希望調査欄に記入 してください。)

 

10. スケジュール

8月1日(木)    9:00 ―  9:40  受付

           9:40 ― 10:00  開講式

            10:00 ― 11:40  講義(講師:松本 眞) 

              昼休み

            13:00 ― 14:40  講義(講師:川崎 敏 和) 

            15:00 ― 15:30  パネル展示

            15:40 ―       折り紙実技 (並行 して開催)
 
 

8月2日(金)    9:30 ― 10:00  受付

            10:00 ― 11:40  講義(講師:西井 龍 映)

              昼休み

            13:00 ― 14:40  講義(講師:岩田 耕 一郎) 

            15:00 ― 15:40  修了式

            16:00 ―      特別懇談会、教室見 学ツアー


11. 申込方法

別紙受講申込書(コピーをとって使用しても可)に必要事項を記入 の上、
封筒表面に「数学教室公開講座申し込み」と朱書し、

〒739-8526 東広島市鏡山1−3−1広島大学理学部数学教室公開講座係

宛に郵送してください。受付期間は

  平成14年 7月1日(月) から 7月12日(金) まで

です。数学教室の事務室(理学部B棟7階B709)まで直接持参していた だく場合には、
午前9時から午後5時までの間にお願いします。
お申し込みいただいた方には、受講票と本講座のテキストを送付いたします。

受講申込書 のPDFファイル

 

12. 問い合わせ先

広島大学理学部数学教室公開講座係
電話: 0824-24-7350(数学教室事務室)
電子メール: koukai@math.sci.hiroshima-u.ac.jp
 

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