最近の研究成果

学術論文として公表された研究成果の簡単な紹介です(過去のものも少しづつ追加していきます。)。
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マウスES細胞の細胞分化過程におけるX染色体の過渡的対合形成を駆動する機序:

ヒトを含む哺乳類では、多くの場合、雄はX染色体とY染色体を1つづつ、雌は2つ(以上)のX染色体を性染色体として各細胞に保持している。そしてX染色体からの遺伝子発現量を調整するため、雌の核内では1つのX染色体を残し他のX染色体の大部分が物理的に凝縮される、X染色体不活性化が、発生過程の途中で起こることが知られている。2006年に、マウスES細胞から細胞分化させる過程でX染色体不活性化が生じ際に、2つのX染色体が過渡的に接近し対合を形成する様子が観察されました。当初この現象は、X染色体不活性化過程のトリガーになっている可能性が示唆されていたが、現在では否定的な結論になっているが、しかし依然としてその過程には重要な生理学的役割が示唆されている。このようにこの核内のダイナミックな現象の生理的意義についての議論は活発に行われてきたが、その一方で、混雑した細胞核内でこのような核大域的な動的過程を促進する駆動力については、十分な知見が得られていなかった。本研究では、ES細胞および初期分化細胞の染色体の数学的モデルを、それらの構造的およびエピゲノム的特徴に基づいて構築し、細胞分化中にX染色体上のユークロマチン領域とヘテロクロマチン領域の分布のが劇的な変化し、このエピゲノムの変化がX染色体を対合形成を促進することを示唆しました。 ( Komoto, et al., Epigenetic-structural changes in X chromosomes promote Xic pairing during early differentiation of mouse embryonic stem cells. Biophys. and Physicobiol. (2022) 19, e190018





ウニの形態形成における原腸の陥入を駆動する機序:

「人生で最も大事な時は、誕生でもなく、結婚でもなく、死でもなく、原腸陥入である」(Lewis Wolpert, 1986)との言葉通り、原腸陥入はヒトを含む様々な動物の形態形成に普遍的で重要な過程であり、これにより動物は消化器系を備えたドーナツ型の体を獲得します。この過程は、胚全体の各細胞が適切な場所・タイミングで移動・変形・分裂することで可能になる、全員参加型の協同的動態として進行します。ウニはヒトを含む後口動物の祖先型で、動物の初期発生・形態形成研究のモデル生物であり、その初期胚発生の様子が高校生物の授業資料などでも取り上げられているように、原腸陥入の全過程が容易に明確に観察できます。しかしそのウニでさえ、この過程がどのように駆動・制御されているのか、十分にはわかっていませんでした。本研究ではまず、オメプラゾールと呼ばれる薬剤の処理によってウニが原腸の陥入しない「外腸胚」を形成することを見出し、その機序を、蛍光顕微鏡観察、ゲノム編集、数理モデルによって明らかにしました。そして、胚の植物極側の細胞の細胞骨格の細胞内極性形成が陥入の駆動力になること、この極性が細胞内pH極性に制御されていることを明らかにしました。 ( Watanabe, et al., Partial exogastrulation due to apical–basal polarity of F-actin distribution disruption in sea urchin embryo by omeprazole. Geneds to Cells (2022) https://doi.org/10.1111/gtc.12934 広島大学・分子遺伝学研究室との共同研究です。)
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酵母のDNA二本鎖切断修復時の動的なゲノム構造再編の力学的機序の解明:

放射線なっどによって生じる DNA 二本鎖切断は、癌などを引き起こす可能性のある生物における最も深刻なDNA損傷です。真核生物は酵母からヒトまで、 DNA 損傷の認識と修復を担う広く保存された分子機構を、進化的に獲得しています。更にこれらの生物では共通して、この修復過程の初期に染色体の運動性が上昇し、構造を大きく再編することも観察されています。 しかし、過去20年間でさまざまな分子の役割が明らかになる一方、この染色体スケールの動態の物理的メカニズムは不明なままでした。 本研究では、最も単純な真核生物の一種であり、パンやお酒の発酵でも活躍する出芽酵母を用いた実験の知見に着目し、DNA 二本鎖切断によって起こる核大域的なヒストンの分解及び損傷部位局所的なクロマチン状態の変化を考慮した、二本鎖切断発生時の酵母核内染色体の数学的モデルを構築し、そのような核内動態の力学的機序を明らかにしました。 ( Nakahata, et al., Mathematical model of chromosomal dynamics during DNA double strand break repair in budding yeast. Biophys. and Physicobiol. (2022) 19, e190012





核小体の構造制御に関わる因子とその機序の解明:

ほとんどの細胞で最も合成されている生体分子は、mRNA からタンパク質への翻訳を担うリボゾームの形成に関連する分子群である。真核生物ではその合成過程のうちの多くが、核内で大きな液滴上構造を形成している核小体で進行する。がん研究会の斉藤らのグループは、RPLファミリーと呼ばれるタンパク質群がこの核小体の形状を核内で維持し・機能させる上で重要であることを見出し、東工大の徳永らのグループによってその欠損が核小体を形成する分子の動態に及ぼす影響を明らかにしていた。そこで、それらの挙動を粗視化分子モデルシミュレーションにより再現することで、これらの因子の影響とその機序を考察した。 ( Matsumori, et al., Ribosomal protein L5 facilitates rDNA-bundled condensate and nucleolar assembly. Life Sci. Alli. 5, e202101045 (2022) がん研究会 斉藤グループ、東工大 徳永グループ などとの共同研究です。)





脳の神経ネットワーク自己組織化の理解に向けた大自由度可塑的カオス結合系のモルフォロジー:

脳を構成する神経細胞群は、結合した細胞への(ノイジーな)電気シグナルの伝達と、その細胞の応答に応じたシグナル伝達経路(結合)の改変(学習)をくり課す事で、自己組織的に高度な情報処理を可能とする神経ネットワークを形成すると考えられている。本研究ではそのような高次機能性ネットワーク形成の機序を理解する為に、その前段階として、ノイジーな素子が”学習”により自発的に形成する可能性のあるネットワーク群の網羅と分類を目的とし、Ito-Ohira によって提案された、学習過程に時間遅れがあるカオス結合系 (Ito and Ohira, PRE 2001) の形成し得るネットワーク構造群の、パラメータ網羅的な探索を行った。その結果、学習により可塑的に結合変化するカオス結合系が、多種のペースメーカー(リーダー)に駆動されるネットワークや、循環も内包する多階層有向ネットワーク、隠れたネットワーク構造をベースに間欠的に構造を変化させるネットワーク等を形成する事を見出した。( Ohara, et al., Spontaneous Organizations of Diverse Network Structures in Coupled Logistic Maps with a Delayed Connection Change. J. Phys. Soc. Jpn, (2020) 89, 114801. 及び Nakanishi, et al., Self-Organization of Diverse Directional Hierarchical Networks in Simple Coupled Maps with Connection Changes. J. Phys. Soc. Jpn, (2022) 91, 023801.





天然変性領域をもつ転写制御因子(FACT)の敏感な活性制御の機序の解明:

従来タンパク質は、アミノ酸配列に基づいて各機能に適した動きを可能とする安定な形状に折り畳むことで、細胞内で活性を示すと考えられてきた。一方近年、特に多細胞生物において、決まった構造を持たない天然変性領域と呼ばれる領域を持つタンパク質が多く知られるようになり、特に核内での遺伝子発現に関わるタンパク質の7割程度が、そのような領域を持つタンパク質である事が示唆されている。しかしそのような安定な構造を持たないタンパク質が、どのように機能を実現するのか?またこのような天然変性領域が(どのような)積極的な意義を持つのか?といった疑問に対する答えは、十分に得られていない。本研究ではそのようなタンパク質の1つの典型であるFACTと呼ばれるタンパク質に着目し、実験と粗視化分子モデルシミュレーションから、そのような天然変性領域とその中に含まれるグリシンリッチな領域が、リン酸化に対するスイッチ的な鋭敏な活性変化を可能にする事を見出し、そのような領域の存在意義の一端を明らかにした。( Aoki, et al., Ultrasensitive Change in Nucleosome Binding by Multiple Phosphorylations to the Intrinsically Disordered Region of the Histone Chaperone FACT. J. Mol. Biol. 432 (2020) 4637-4657. 広島大学・分子生物物理学研究室との共同研究です。)





脊椎動物の網膜桿体細胞内の円板膜におけるロドプシン列状超分子構造形成のメカニズム:

動物の目で光を実際に感知するロドプシンは、網膜内の円板膜で列状超分子を形成しています。しかしこの列状超分子構造が形成されるメカニズムやその機能的意義については不明なままでした。そこで実験・生化学的知見を豊富に持つ神戸大学・大阪大学のグループと共同で円板膜を構成する脂質とロドプシンの動態の定量的な数理モデルを構築し、シミュレーションにより、ロドプシンの列状超分子の単位構造となるロドプシン2量体の形状と、及び円板膜内の脂質ラフトドメインが2量体同士を繋げる「糊」の役割を担い超分子構造を形成する事を、見出しました。( Kaneshige, et al., Affinity of rhodopsin to raft enables the aligned oligomer formation from dimers: Coarse-grained molecular dynamics simulation of disk membranes. PLoS ONE 15 (2020) e0226123. 実験を進めている神戸大学(森垣・林グループ)と大阪大学(山下グループ)との共同研究です。)
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動画はこちら

* 2020/2/29 中国新聞で紹介されました。




ゲノム編集で白ウニ(アルビノバフンウニ)を作成(研究の主たる部分は、分子遺伝学研究室・坂本氏によるものです。):

バフンウニは多細胞生物の初期発生のモデル生物として昔から研究されていますが、ウニのゲノム編集の成功例は、近年その技術が急速に進歩しているにも関わらず、ごく少数に限られてきました。それに対し今回、高効率で色素形成遺伝子をノックアウトする事ができる技術を確立し、またノックアウトした個体を成体まで育てる事で、アルビノウニの成体(白ウニ)を観察する事に成功しました。( Liu, et al., Establishment of knockout adult sea urchins by using a CRISPR-Cas9 system. Development Growrh and Differentiation 10.1111/dgd.12624. 広島大学・分子遺伝学研究室との共同研究です。)
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真核生物ゲノム中の新規の機能性非コードDNA領域(NENLIS)の同定:

真核生物ゲノム中の至る所で見られるヌクレオソーム排他的な配列の機能性について考察しました。ウニで同定された ArsInslator のコア配列や A リピート配列、CCGNN リピート配列等は、ヌクレオソーム排他的である事が知られていますが、同時にクロマチンループ形成タンパク質が結合結合しないにもかかわらず、(クロマチンループ形成を伴わずに)ゲノムを区画化するインスレーター活性をもつ事が知られています。本研究ではそのような配列を Nucleosome excluding non-looping insulator sequence (NENLIS) と名付け、その機能機序とヒトゲノム中における機能性を、数理モデルとゲノム・エピゲノムデータ解析により明らかにしました。( Matsushima, et al., Insulator Activities of Nucleosome-Excluding DNA Sequences Without Bound Chromatin Looping Proteins. J. Phys. Chem. B 2019, 123, 5, 1035-1043. 広島大学・分子遺伝学研究室との共同研究です。)





分裂酵母減数分裂期の対合形成における核のホーステイル運動の役割:

減数分裂時におこる相同遺伝子座間の対合形成のためには、各染色体が他の染色体との相同性を認識し、相同染色体同士が核内で互いに接近する必要があります。減数分裂前期では、生物種毎に詳細は異なるものの、細胞内で核が変形を伴う激しい運動を行う事が知られていますが、その意義についてはあまり酔う分かっておりませんでした。そこでそのような分子認識・接近の機序を明らかにするため、減数分裂期にホーステイル運動と呼ばれる核の大規模運動が現れる分裂酵母を例に、核膜及び核内染色体の数理モデルを構成しました。そして対合形成における核の動態や核質の流動の寄与を明らかにしました。( K. Takao, et al., Torsional turning motion of chromosomes as an accelerating force to align homologous chromosomes during meiosis. J. Phys. Soc. Jpn. (2019) 88, 023801 大阪大学(平岡グループ)との共同研究です。動画はこちら(核膜の運動核内染色体の運動))





高等多細胞生物(シロイヌナズナ)遺伝子の個体間発現揺らぎ・制御・機能の関係:

同一のゲノムをもつ生物種が同一の生育環境にあったとしても、その遺伝子発現状態は常に個体間で(表現型にも現れるほど)「ばらつき(揺らぎ)」ます。そこでシロイヌナズナをモデルに、1つの生育状況に付き20以上の Replidate に対するRNAシークエンスを行い、各遺伝子の発現量のばらつき方を網羅的に調べました。その結果、発現量の分布が遺伝子毎に大きく異なりガウス分布に近いものからベキ分布に近いものまで存在する事、またそのばらつき方が各遺伝子の持つ機能やその発現を制御する転写ネットワークの形状と強い相関がある事、等を見出しました。( A. Awazu, et al., Broad distribution spectrum from Gaussian to power law appears in stochastic variations in RNA-seq data. Scientific Reports 8, (2018) 8339. 龍谷大学・永野グループとの共同研究です。 (日本語での解説)



* また、発現量の「ばらつき」が大きい遺伝子ほど、環境変化(ストレス)に対するより大きな(敏感な)発現変動(応答)を示す傾向がある事も見出しました。( K. Hirao, et al., Noise-plasticity correlations of gene expression in the multicellular organism Arabidopsis thaliana. J. Theo. Bio. 387, (2015) 13-22 龍谷大学・永野グループとの共同研究です。)



ウニ初期胚の発生ステージに依存した核内染色体構造変化の解析:

多細胞生物の発生・細胞分化・形態形成は、適切な時期に適切な場所で適切な遺伝子の発現を可能にする、高度な制御のもと実現されます。この核内染色体の構造と動態は、そのような制御機構を支える大きな柱の一つと考えられています。そこで実際に染色体構造が発生の進行に伴いどのように変化し、その変化が遺伝子発現にどのように影響するのかを明らかにするため、ウニ初期胚における、特に卵割時に転写が強く活性化される初期型ヒストン遺伝子座の核内配置に着目し、核内構造と発生の関係を考察しました。そして初期型ヒストンの転写が活発な時期に、その遺伝子座同士が核の中央に互いに集まり、転写ファクトリー様の構造を形成する事を見出しました。( Matsushita, et al., Dynamic changes in the interchromosomal interaction of early histone gene loci during early development of sea urchin. J. Cell Sci (2017) 130, 4097-4107. 広島大学・分子遺伝学研究室との共同研究です。)
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夜行性マウス(夜行性動物)桿体細胞の細胞分化に伴う核内染色体構造変化:

多細胞生物の細胞分化には適切な遺伝子の発現が欠かせません。核内染色体の構造と動態は、遺伝子制御を支える大きな柱の一つと考えられていますが、夜行性マウスの網膜桿体細胞等では、その核内構造、特に核内ヘテロクロマチン分布自身が、光受容における重要な働きをしている事が示唆されています。そこでそのような染色体分布の変化がどのように制御されているのか、数理モデルを用いて考察しました。そして核内へテロクロマチン分布が、Laminタンパク等のによる核膜との親和性だけでなく、核の動的な形状変化の影響も受け、変化する可能性を見出しました。( A. Awazu, Nuclear dynamical deformation-induced hetero- and euchromatin positioning. Phys. Rev. E 92, (2015) 032709.


* この考察・結果は最近(2019)報告された実験結果からも支持されていると考えられます。



DNAの配列依存的な物理的性質の変化とヌクレオソーム形成能との関係:

生物の遺伝情報はDNAに格納されていますが、特に多細胞生物群ではタンパク質の設計図としての役割以外の役割を果たしていると考えられる領域が大部分(ヒトでは 98.5% 程度)です。そのようなDNA領域に対し、各領域のヌクレオソーム(DNAがヒストンに巻き付いた、真核生物染色体の構造単位)形成能に着目し各々の領域の特徴付けをする事は、それらの領域の機能性を考える基盤となります。そこで様々な生物に対しゲノムワイドなヌクレオソーム分布を考察するための準備として、DNAの粗視化分子動力学モデルによる配列依存的なDNAの力学特性の評価法とそれに基づくヌクレオソーム形成能評価の可能性の考察( S. Isami, et al., Simple Elastic Network Models for Exhaustive Analysis of Long Double-Stranded DNA Dynamics with Sequence Geometry Dependence PLoS One 10, (2015) e0143760 )、及び A, T, C, G 配列の組み合わせからヌクレオソーム形成能を評価する統計モデルに基づく推定器の構成を行いました( A. Awazu, Prediction of nucleosome positioning by the incorporation of frequencies and distributions of three different nucleotide segment lengths into a general pseudo k-tuple nucleotide composition Bioinfomatics. (2017) 33: 42-48. )。


* DNAの粗視化分子動力学モデルについては、更なる粗視化の可能性も考察し、10 kbp 以上の長いDNAの動態の考察も可能となる方法の提案も行いました( T. Kameda, et al., The 1-Particle-per-k-Nucleotides (1PkN) Elastic Network Model of DNA Dynamics with Sequence-Dependent Geometry Frontier in Physiology. (2017) DOI: 10.3389/fphys.2017.00103. )。




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