研究集会「生態系の数学的研究に向けて」
(Mathematical Approaches for Ecosystem Research)


日程: 2012 年(平成 24 年) 2 月 3 日(金) -- 4 日(土)
場所: 広島大学理学部B棟 B707号室

※本研究集会への事前の参加登録,および参加費は不要です。皆様のご参加をお待ちしております。



プログラム(印刷用はこちら

2 月 3 日(金)

13:00  開会挨拶


13:10 -- 14:00  難波 利幸 (大阪府立大学理学系研究科)

Lotka-Volterra モデルで生物群集の本質にどこまで迫れるか?

Lotka-Volterra モデルは,生物群集の動態を記述する最も古く最も簡単なモデルだと言ってよいだろう。Lotka (1925) と Volterra (1926) 以来,多くの研究者によって研究されてきたが,わずか 3 種や 4 種の個体群からなる群集についても,その性質が完全に明らかになっているとは言い難い。多くの種の個体群が相互作用する群集では,第 3 の種を介する間接効果が 2 種間に働くために,Lotka-Volterra モデルのような単純なモデルでも複雑な挙動が現れる。本講演では,間接効果を含み,生物群集を構成するモジュールとして注目されている,3 種間競争,消費型競争,見かけの競争,ギルド内捕食,栄養カスケードなどを Lotka-Volterra モデルから理解する試みを概説し,生態学的に興味深い現象との関係を探る。

14:20 -- 15:10  時田 恵一郎 (大阪大学サイバーメディアセンター 大規模計算科学研究部門)

ランダム群集モデルの統計力学

スピングラス(不純物磁性合金)などの統計物理学的研究を通じて,比較的 少数種の素子が複雑な相互作用を介して示す新奇な巨視的現象の数理的理解 が進んできた。一方,生態系,代謝系,遺伝子ネットワーク,免疫系,言語 進化などの,生物「群集」においては,進化がもたらす素子自体の圧倒的な 多様性と,それが生み出すより複雑な相互作用が,非生物系とは本質的に異 なる非線形非平衡物理学上の問題を提示している。このような複雑性と多様 性に関する研究の歴史的背景から始めて,ランダムな相互作用を仮定する群 集のモデルに対する統計力学的解析と,最近実証研究が進んでいる種個体数 分布などの,群集が示す巨視的パターンに関する理論予測について,最近の 研究結果を報告する。

15:30 -- 16:20  近藤 倫生 (龍谷大学理工学部・JST さきがけ)

生物群集のスケールとパターンをどう捉えるか

生物群集ではさまざまな生物種が相互作用している。この種間相互作用が個体 数変動にどのような影響を及ぼすかという視点に基づいて,生物群集における 種組成・分布のパターンやその時間変動,環境への応答についての研究が進め られてきた。だが,生物群集に関する理論的研究と実証研究の間には,しばし ば両者の対話を阻害するギャップが存在し,両者の協同を困難にしているよう に見える。この話題提供では,生物群集や生態系に関する研究にあらわれるそ のようなギャップについて,時間・空間・生物学的スケールの3つの視点から 紹介・説明する。さらに,そのようなスケール依存性が生態系の重要な特徴で もある点を論じた上で,その解決の可能性について議論したい。

16:20 -- 16:50  総合討論


18:30 --   懇親会


2 月 4 日(土)

09:30 -- 10:20  瀧本 岳 (東邦大学理学部)

食物連鎖の長さを決める環境要因:フィールドワーク・メタ解析・数理モデルによるアプローチ

C.S. エルトンによって,食うものと食われるものの関係が「食物連鎖」として記載され,いろいろな長さの食物連鎖が存在することが指摘されたのが 80 年以上前である。それ以来,食物連鎖長の決定機構の解明は群集生態学の大きな課題の 1 つとなってきた。古典的に主流だったのは,一次生産性や撹乱が食物連鎖長の主要な決定要因だとする仮説である。しかし近年,食物連鎖が成立している生態系の物理的サイズ(生態系サイズ)が食物連鎖の長さを強く制限しているという証拠が,湖や河川の食物連鎖において見つかりはじめた。そこで,陸上生態系の食物連鎖でも生態系サイズの効果が見つかるのかを調べるため,私は,バハマ諸島の様々な面積の島の食物連鎖の長さを比較した。また,比較的静かな内海と荒れやすい外海にある島を比較することで,撹乱が食物連鎖の長さに与える影響も評価した。それぞれの島の上位捕食者を調べ,その栄養段階を安定同位体比分析により推定し,食物連鎖長の島間比較を行った。その結果,撹乱が強くなっても,上位捕食者がトカゲから網グモに交替するものの両者の栄養段階は違わないため,食物連鎖長に違いは生じなかった。その一方で,生態系サイズが 106 倍になると,上位捕食者の栄養段階が1段階増えて食物連鎖が長くなっていた。また,この結果を湖や河川からの例に加えたものを総合し,一次生産性,撹乱,生態系サイズの食物連鎖長への影響のメタ解析を行った。その結果,生態系サイズおよび一次生産性の平均効果サイズが有意に正となったが,撹乱の平均効果サイズは負となったものの有意ではなかった。また,生態系サイズの平均効果サイズの方が,一次生産性の平均効果サイズよりも大きくなった。さらに,メタ群集の数理モデルを用いて,一次生産性や撹乱,生態系サイズがどのように相互作用して食物連鎖長を決定しているのかを調べた。このモデルから,1) 生態系サイズが大きくなると,食うものと食われるものの共存が促進され食物連鎖が長くなること,2) 一次生産性と生態系サイズの影響には相補的な関係がある一方で,一次生産性が高すぎると食うものと食われるものの共存が阻まれ食物連鎖は短くなること,3) 強い撹乱のもとでは高次捕食者が維持されないために食物連鎖は短くなるが,中程度の撹乱では食うものと食われるものの共存が促進され食物連鎖は長くなること,などが分かった。

10:40 -- 11:30  田中 嘉成 (国立環境研究所)

生物群集における種形質の動態と環境変動に対する生態系応答

環境変化に対する生物群集の反応を,機能形質の分布 (形質の平均値など)の変化として解析する新たな群集生態学的手法を 「形質ベースアプローチ(the trait-based approach)」という。 ここではその理論的枠組みを研究した。 群集内形質分布変化を多種系ロトカ・ボルテラモデルに基づいた数理モデルと シミュレーションで解析し,以下の結果が得られた。 群集内(単一栄養段階の多種共存系)における種間競争が資源分割モデル (多次元類似限界モデル)に従うとき, 群集内平均形質値の変化は,種選択係数(種の内的自然増加率の形質値に対する 回帰係数)と形質分散の積に比例する。 種数が多い場合,群集内形質分布変化は 種数や種間相互作用強度によってほとんど影響されず, 群集内の形質分散と種選 択係数によってほぼ決まる。 ただし,このことは,群集が動的平衡状態にあるこ と,種間競争が対称的である資源分割型であることが条件である。 また,多形質 の場合は,群集内形質変化が形質野間の相関に大きく依存するため,形質間相関 の情報は必須である。


11:30 -- 12:00  総合討論


12:00   閉会挨拶



広島大学までの交通案内


宿泊案内



organizers:瀬野裕美,滝本和広,田中嘉成,吉野正史


※この研究集会は,
   日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究C
   課題番号 23570040 (代表者:田中嘉成)
 からの援助を受けています。


Update: 2012.1.16