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有理曲面とPainleve方程式の幾何


坂井 秀隆
京都大学大学院理学研究科


Painleve微分方程式は独立した二つの起源を持っている。 一つはP. Painleveらが新しい特殊関数の充たすべき性質として 課した条件(Painleve性とよばれる)で、彼らは この条件から六つのPainleve微分方程式を導出した。 二つ目はR. Fuchsの研究に始まる線形微分方程式の変形理論である。

講演の目的はこれらとは異なる視点、有理曲面の理論により、 Painleve方程式を特徴づけることである。

70、80年代の岡本和夫氏によるPainleve方程式の研究 により二つの大きな進展があった。 一つは初期値空間とよばれる有理曲面の構成、 二つ目はアフィンWeyl群対称性である。 我々は岡本氏の初期値空間の構成の逆を行なうこと を目標とする。つまり微分方程式から始めるかわりに 有理曲面の代数幾何的理論から出発して、 微分方程式に触れずに対称性を導出し、 更にその対称性の極限として微分方程式自身をとらえる。

我々は微分方程式をある差分系の極限としてとらえるが、 これは離散Painleve系とよばれ、近年研究されだした 可積分系である。とくにPainleve性の離散版とみなせる、 特異点囲い込み判定法がA. Ramani, B. Grammaticosらによって 導入されたことが重要な発展をもたらした。

まずgeneralized Halphen曲面を、非特異有理曲面で、 $\vert-{\cal K}_{X}\vert$の元で標準型とよばれる因子を もつものと定義する。

このような曲面は $\vert-{\cal K}_{X}\vert$の次元が 0か1かによって区別される。 $\dim \vert-{\cal K}_{X}\vert=1$のときは、指数1のHalphen曲面 とよばる有理楕円曲面で、このときはPainleve方程式のかわりに 楕円関数のみたす微分方程式が現れる。

$\dim \vert-{\cal K}_{X}\vert=0$のとき、 $D=\sum m_{i}D_{i}\in
\vert-{\cal K}_{X}\vert$ の型Rによって曲面は 以下のように分類できる。

  R
elliptic type A0(1)(=I0)
multiplicative type $A_{0}^{(1)\ast}(=I_{1}),
\ldots ,~A_{6}^{(1)}(=I_{7})$,
  $A_{7}^{(1)},~A_{7}^{(1)\prime}(=I_{8}),
A_{8}^{(1)}(=I_{9})$
additive type $A_{0}^{(1)\ast \ast}(=II)$,

$D_{4}^{(1)}(=I_{0}^{\ast}), \ldots ,
D_{8}^{(1)}(=I_{4}^{\ast})$,

$E_{6}^{(1)}(=IV^{\ast})$,

ここで、elliptic type, multiplicative type, additive type という区別はそれぞれ $\hbox{rank } H_{1}(D_{red},{\mathbb Z})=2,1,0$に 対応している。(Dred $D=\sum m_{i}D_{i}$にたいし $D_{red}=\cup D_{i}$とする。) R E8(1)型のルート系の既約アフィン部分ルート系 に対応している。 括弧の中の記号は小平の特異ファイバーに対応した記号である。 この表の中で、 Dl(1), El(1)と表される 記号に対応した曲面がPainleve微分方程式の初期値空間である。

これらの曲面は射影平面への双有理射をもち、 射影平面の9点ブローアップとして実現できる。 よって、これらの曲面の同型類は射影平面の (infinitely nearな点を含む)9点で決まる。 しかしこのparametrizationは射影変換による不定性を除いても、 例外曲線の選び方だけ任意性を持つ。 例外曲線を ${\rm Pic}(X)$の基底の構成元と思うことで、 我々はひとつのmarkingをえる。 このmarkingの取り替えを詳しく調べるために、次の用語を 導入する。

${\rm Pic}(X)$の自己同型で

1.
交叉形式をかえない
2.
標準類を動かさない
3.
有効類のなす ${\rm Pic}(X)$の部分半群を不変にする
ものをCremona isometryといい、それのなす群を ${\rm Cr}(X)$と書く。

${\rm Cr}(X)$はmarkingの変換を通して 曲面の族に作用し、 Dl(1)型、 El(1)型においては、 これがPainleve方程式の対称性になる。 我々は $\dim \vert-{\cal K}_{X}\vert=0$となる generalized Halphen曲面Xにたいして、 ${\rm Cr}(X)$の構造を決定し、 曲面の族への作用の具体的な実現を与える。

Painleve微分方程式自身については このアフィンWeyl群対称性の平行移動部分が 離散Painleve方程式として知られる差分系 になっていることがわかる。曲面の退化とともに 連続極限がとれて、その極限として Painleve微分方程式が得られる。



 

Tohru Okuzono
1999-11-24