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食不在条件をみたす2次元散乱撞球力学系のゼータ関数について
盛田 健彦  東工大 理工


$J\ge 3$ を整数とし, $Q_1 , \, Q_2 , \, \dots , \, Q_J$ は以下の条件をみたす $\mathbb{R} ^2$ の有界領域とする.

(H.1) (scattering) 各 Qj は凸であり,その境界 $\partial Q_j$ はいたるとこ ろ正の曲率をもつ C3 級の単純閉曲線である.

(H.2) (without eclipse) 相異なる添え字の三つ組 (j1 , j2 , j3 ) に対し, $\text{conv}(\overline{Q_{j_1}}\cup \overline{Q_{j_2}})\cap
\overline{Q_{j_3}} = \emptyset$が成り立つ.ここで, $\text{conv}(A)$ は集合 A の convex hall を表わすもの とする.

Qj を scatterer ということにする.ここでいう撞球力学系とは,scatterers の外部領域 $\overline{Q}= \mathbb{R} ^2 \setminus \bigcup_{j=1}^{J}Q_j$ 内を単位 質量の質点が単位測度で幾何光学の反射法則にしたがって運動することを記述する流 れ St のことである.

CG(Q) で St の閉軌道全体を表わし,その元を $\tau$ で表わす.$l(\tau )$ は閉軌道 $\tau$ の "最小周期 = 長さ" を表わすものとする.われわれの 興味の対象は length spectrum $\Lambda (Q) = \{ l(\tau )\, :\, \tau \in CG(Q) \}$ の分布である.これを調 べることは,形式的なオイラー積 $\zeta (s) = \prod_{\tau}(1 - \exp (-s l (\tau )))^{-1}.$の解析的な性質を調べることと同等であることはよく知られている. これを撞球力学系 St のゼータ関数とよぶ.10年以程前に講演者は次を示した.

定理 A
h>0,および, $\delta > 0$ が存在して,(1) 半平面 $\text{Re }s > h$ において上の形式的オイラー積は絶対収束し,零点をもたない解析 関数をあらわす.この関数をやはり $\zeta (s)$ と書くことにする.(2) $\zeta (s)$ は半平面 $\text{Re }s > h- \delta$ における零点をもたない 有理型関数に解析接続される.(3) 直線 $\text{Re }s =h$ 上の極 は s=h のみであり,しかもそれは一位の極である.
この定理の系として素数定理の類似が示されることもよく知られている.今回はその 後の発展として得られた以下の結果とそれに関連した話題について話させていただく.
定理 B
$\beta >0$ が存在し て $\zeta (s)$ は半平面 $\text{Re }s >-\beta$ における零点をもたない 有理型関数に解析接続される.
定理 C
s= 0 は $\zeta (s)$ の正則点である.とくに $\zeta (0)
= -1/(J2^{J-1})$ と計算できる.
定理 D
$\zeta (s)$ $\{ s \in \mathbb{C} : \text{\rm {Re} }s > h -
1/\vert\text{\rm {Im }}s\vert^\alpha , \, \vert\text{\rm {Im }s}\vert >2 \}\setminus \{ h
\}$ で極をもたないような $\alpha >0$ が存在する.



 

Tohru Okuzono 平成12年11月30日