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ニュートン法と複素力学系
宍倉光広
広島大学大学院理学研究科

多項式 $P(x)=a_dx^d+\dots+a_1x+a_0$ の根を数値計算により求めるための方法とし て,ニュートン法は古くから知られている.具体的には,適当に初期値 x0 をと り,数列 $\{x_n\}$

\begin{displaymath}x_{n+1}=x_n - \frac {P(x_n)}{P'(x_n)}
\end{displaymath}

で定める.そしてこの数列が P(x) のどれかの根に収束することを期待するのであ る.実際,根の近くの初期値から出発すれば,数列 $\{x_n\}$ はその根に収束する ことが知られている.それでは,根がどこにあるかを知らずに適当に初期値を定めて ニュートン法を行うとき,いつでも根を見つけることができるのだろうか?また,ど れくらいの確率,あるいは効率で見つけることができるのだろうか?これらの問題を 複素力学系の立場から考察する.

まず,ニュートン法は,有理関数

\begin{displaymath}N_P(z)=z - \frac {P(z)}{P'(z)}
\end{displaymath}

がリーマン球面上定義する複素力学系と見なすことができる.そして,P(z) の根 $\alpha_1, \dots , \alpha_d$NP の吸引的不動点となる.($\alpha_i$ が 重根でなければ超吸引的である.)ニュートン法による上記の数列(すなわち, NP の軌道)が $\alpha_i$ に収束するような初期値の全体は $\alpha_i$ の吸引 鉢 $A(\alpha_i)$ と呼ばれる.ニュートン法が失敗するような初期値の集合は $K(N_P)=\mathbb C - \cup A(\alpha_i)$ である.例えば,NPP の根以外の吸 引的周期点をもつ場合は K(NP) が内点を含み,そのルベーグ測度は正となる. K(NP) のルベーグ測度が正となる NP の特徴付けはまだ未解決の問題である. $\partial A(\alpha_1)=\dots=\partial A(\alpha_d)=\partial K(N_P)$NPのジュリア集合 J(NP) である.3次多項式 $P_c(z)=(z-1)(z+1)(z-\frac 1c)$に対するニュートン法 NPc のジュリア集合およびパラメータ空間の図も紹介 する予定である.

複素力学系的手法の応用として,次を示すことができる.

Theorem 1   ニュートン法 NP のジュリア集合 J(NP) は連結である.し たがって, $\hat \mathbb C-J(N_P)$ の各連結成分,特に根 $\alpha_i$ の吸引鉢 $A(\alpha_i)$ の各連結成分は単連結である.

証明は擬等角写像の理論を用いて複素力学系の手術を行うことによって得られる.こ の定理を用いて,ManningやSutherlandは,ニュートン法で根を見つけるために必要 な初期値の個数や計算回数の評価を導いた.



 

Tohru Okuzono 平成12年5月26日