広島大学数学科を去りがたい理由

 広島大学理学部数学科・理学研究科数学専攻・松本 眞(写真

 

僕は京都大学数理解析研究所に5年、慶応大学工学部数理科学科に3年半、九州大学理学部数学科に1年、京都大学総合人間学部基礎数理講座に2年、そして広島大学理学部数学科8年在籍しました。

 

ということは、広島大学に抜群に長くいたということ。

その理由は、

(1) 理学部、特に数学科の環境が魅力的であったこと、

(2) 妻の実家の離れ(河内町)という、ホタルの飛ぶ川を前にする山あいに住み、稲作を手伝えたこと

なんです。

 

数学科は教員も事務もみんな親切。すんごく優秀な人も、いばることなくみんなやさしい。(学生への教育指導は甘くないけど。)ちょっとだけ挙げても、幾何学賞受賞の鎌田聖一さん、モチーフのKimura finitenessで著名な木村俊一さん、特異K3曲面で有名な島田伊知朗さん、ほか、みなさんとても高名なのに、いつも謙遜されています。

 

僕の研究分野は「疑似乱数」(精密に「でたらめさ」を構成する:有限代数を使って、周期が2^{19937}-1623次元空間に一様分布していることが証明されている乱数発生アルゴリズムメルセンヌ・ツイスタ―は、とっても使われています。Mersenne Twistergoogle検索してみてください)と「数論的基本群」(バリバリの抽象代数学、でもグロタンディークトポロジーやらカテゴリーやらスキームとかエタール被覆とか楽しい概念一杯で、ガロア理論の再構築になってるんよ)。

 

そんな「でたらめ」の研究や、まるっきり実用性が(今のところ)なさそうな(でも100年後にはあるかも)抽象数学の研究を、自由にできる環境が、広島大学の数学科にはあります。なんでこんな僻地(失礼)に、優秀な人が結構集まっているのか不思議な気もしますが、伝統的によい人材を集めて来たのだと思います。

 

学生の方々にも、優秀な方が混じっています。学部2年生なのに自主ゼミで

大学院向けの数学の本を読む人や、4年生の卒論を国際学術誌に載せる人もいます。助教の平之内さんは「朝8:30から夜11:00までセミナーを数回やって、一冊の本を読み切る会」(春休み地獄ミナー)を開かれていますが、2年生から4年生まで参加者がいます。僕が知る限り、広島大学の数学科・数学専攻はもっとも手厚く学生の指導をしている数学科だと思います。(第一、学科の名前が「数学科」のまま残っている大学はもはや少数派!東大でも慶応でも数学科は数理科学科になっちゃったもんね。)

 

僕が指導して広島大学で博士号を取って、高専や大学の教員となった方もいます、原本博史さん(疑似乱数研究、広島大学特別研究員を経て呉高専講師)、斎藤睦夫さん(コンピュータのプロ:広島大学理学研究科数学専攻助教, SFMTでググれ)です。来年博士課程の3年生となる予定の原瀬さんは、東京大学数理科学研究科の転入学試験に合格し、来年度からはそこで博士の3年生となります。みなさん、(もちろん英語で)論文を書き国際学術雑誌に論文を複数出版し、国際会議で複数回の発表があります。

 

それなのに。実は20104月から、僕は東京大学数理科学研究科に転出してしまうのです。お話が来たとき、相当悩んだのですが、「東京が実家で80代の母が一人暮らししている」のが決め手となってしまいました。

 

実は、今これを書いている20103月になっても、まだ広島大学数学科・数学専攻に未練あり。でも、これが僕に与えられた運命なのでしょう。

 

僕の広島大学に残したホムペはここねこ

 

じゃ、またね。