広島大学理学部数学科 代数数理グループ

2024年度の代数学セミナー

通常の講演時間はおよそ 1 時間半です。

25(水) 1620 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
助永 真之 氏(広島大学)
トロピカル有理関数の最小体積表示
R^n 上のトロピカル有理関数φ が与えられたとき、それをトロピカル多項式f とg を用いてφ= f ⊘ g と表すことができる。トロピカル多項式に関する双対定理をトロピカル有理関数に対して拡張し、組( f, g) の体積を定義する。n = 1 のとき、φ(x)= f (x) ⊘ g(x) を満 たす組( f, g) の中で体積が最小のものに対して、f (x) ⊕ (y ⊙ g(x)) の双対分割は平行移動を除いて一意であることを示す。また、n = 2のときは体積最小の表示が一意ではない例があることも紹介する。 本講演は非専門家向けにトロピカル代数の基礎的な計算例から始める。

115(水) 1500 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
稲津 大貴 氏(広島大学)
Ending Partizan Quotient について
2 人の対局者が同じ着手ができるゲームにおいて勝敗判定の方法はこれまで正規形と逆形の2 つが主に考えられてきた. 昨夏, 井上氏により新たに終了局面によって勝敗を決定するEnding Partizan という方法が提案された.

正規形ではnim value, 逆形ではmisère quotient という帰結類の計算を簡単にする方法が知られている. Ending Partizan においてもmisère quotient と同様にEnding Partizan quotient を考えることができることを証明したので紹介する. また着手がoctal code 4·001,0·033 で定まるゲームのEnding Partizan quotient を紹介する.

この講演では, 最初の15 分は英語によるスライドを利用した発表を行い, 残りの時間でその詳細について日本語による解説を行う.

なお本講演は井上博裕氏, 木村俊一氏(広島大学), 末續鴻輝氏(早稲田大学)との共同研究に基づく.

18(水) 1515 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
渡辺 業 氏(広島大学)
Collatz 予想に現れる自己再帰的な波
自然数n に対して, n が偶数ならばn/2 を, n が奇数ならば(3n + 1)/2を対応させる写像T を考える。この時「T の繰り返しによって全ての自然数n が1 → 2 → 1 というサイクルに辿り着く」という主張がCollatz 予想で, 未だに解決されていない.

本講演では, Collatz 予想が真であることを仮定した上で, 自然数nについてn が偶数回目で1 となるなら+1、奇数回目で1 となるなら −1 となるような差分のグラフ(つまりk がT k(n)= 1 を満たすものとしたときf (n)− f (n− 1)= (−1)k を満たすf のグラフ) がフラクタル構造を持つことを紹介し, 他の一般化についても時間の許す限り紹介する.

この講演では, 最初の20 分は英語によるスライドを利用した発表を行い, 残りの時間で日本語による解説を行う.

なお本講演は木村俊一氏(広島大学), 城村敦氏との共同研究に基づく.

1218(水) 1515 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
渡辺 業 氏(広島大学)
Wythoff Nim の変種のP-position に現れるフラクタル構造について
2 山の石取りゲームとして, 1 回の着手で(1) 片方の山から1 コ以上石を取る, (2) 両方の山から1 コ以上同じ数だけ石を取る, のどちらかを許したWythoff Nim というゲームが存在する. このWythoff Nim の正規形(着手出来なくなった方が負けというルール) のP-position(後手必勝局面) は黄金比の倍数の整数部分を用いて記述されることが知られている. (Wythoff,1907)

本講演ではWythoff Nim の変種として1 回の着手で(1’) 片方の山からa (≥ 1) コ以上石を取る, (2’) 両方の山から1 コ以上かつ取る石の数の差がc(≥ 0) 以内になるように石を取る, のどちらかを許した(a, 0, c)-YamaNim を考え, そのP-position が記号代入系を用いたフラクタルを利用して記述できることを紹介する. これは通常のWythoff Nim 及びFraenkel によるr-Wythoff Nim(ここでは(1, 0, r−1)-YamaNim) の結果(1982) の自然な拡張になっている.

例えば(2, 0, 0)-YamaNim の場合, x ≤ y を満たす正規形のP-positionを列挙すると(0, 0), (0, 1), (2, 4), (2, 5), (3, 7), (3, 8), (6, 12), (6,13), (9, 17),(9, 18),· · · となるが, そのx 座標に現れる数字の差分をとった列は(2, 1, 3, 3, 1, 1, 3, 1, 1, 3, 3,· · · ) となり, これは(2) → (2, 1), (1) → (3), (3)→ (3, 1, 1) という代入によって生成される2 から始まる不動点である列と一致する.

この講演では, 最初の15 分は英語によるスライドを利用した発表を行い, 残りの時間でその詳細について日本語による板書を利用した解説を行う.

なお本講演は木村俊一氏, 山下貴央氏(広島大学) との共同研究に基づく.

1211(水) 1500 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
佐藤 宏平 氏(小山高専)
足利連分数と藤木・岡の特異点解消
複素2次元巡回商特異点に対する極小特異点解消から得られる例外因子と,付随するHirzebrch-Jung連分数の係数は順序を込めて対応する.この次元に関する拡張として,足利正氏が導入した高次元連分数があり,これにより藤木・岡のトーリック特異点解消が得られる.

本講演では,任意の3次元Gorenstein abelian商特異点に対し,射影的クレパントな藤木・岡のトーリック特異点解消が構成できることを説明する.

1120(水) 1435 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室
山下 貴央 氏(広島大学)
Triangular Nim の Wythoff バリエーションとその拡張
Yama Nim は発表者が修⼠論⽂で報告したゲームであり、 ⼀⽅の⼭から 2 個以上の⽯を取り、もう⼀⽅の⼭に 1 個戻す、という着⼿の 2 ⼭の⽯取りゲームである。TriangularNim は、Yama Nim の⾃然な拡張で、⼀⽅の⼭から 2 個以上の⽯を取り、全体として⽯が減るようにもう⼀⽅の⼭に少なくとも 1 個以上戻す、という着⼿の 2 ⼭の⽯取りゲームである。両者のゲームの必勝法は、2 つの⽯の個数の差が 1 個以下の時に良形になる。

本発表では、 まず Triangular Nim の Wythoff バリエーションの正規形の必勝法について説明を⾏う。このゲームは、 Triangular Nim の着⼿に加え、 𝑖と𝑗の制限の下で、プレイヤーが両⽅の⼭から⽯を取ることが許される、例えば 𝑖個の⽯を⼀⽅の⼭から、𝑗個の⽯をもう⼀⽅の⼭から取ることができる。𝑖 = 𝑗 > 0 としたとき、このゲームの局⾯(𝑥, 𝑦) の良形は、 𝑥 ≤ 𝑦 として、(𝑥, 𝑦) ∈ {(0, 0), (0, 1), (1, 3), (3, 6), (6, 10), (10, 15), . . . } すなわち、連続した三⾓数である。⼀般化したとき、(つまり、𝑖, 𝑗 > 0かつ|𝑖 = 𝑗| ≤ 𝑐 のとき、) 必勝局⾯が連続した(c+3)⾓数で記述できることも分かった。 その後、逆形のルールについても𝑐 = 0と𝑐 ≥ 1で異なる記述が得られたので、それについても報告する。

その他、 Triangular Nim を⼀般化したゲーム((𝑎, 𝑏)- Triangular Nim)の Wythoff バリエーションについて⾯⽩い結果が得られたので、それについても報告する。

1113(水) 1530 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (開始時間にご注意ください)
井上 博裕 氏(広島大学)
Ending Partizan Subtraction Nimについて
2人の対局者は同じ着手をできるが, 終了局面によって勝敗を決定するような組合せゲームはほとんど考えられてこなかった. 今回紹介する Ending Partizan Subtraction Nim は Nim における初めての例である.

Sは2以上の自然数の空でない部分集合とする. Left と Right と呼ばれる2人のプレイヤーが戦う次のようなゲームを考える: 1つの山に石がいくつかあり, Left と Right は交互に s ∈ S 個の石を取る. 最後に両者とも石が取れなくなったとき, 石が偶数個残っていれば Left の勝ち, 石が奇数個残っていれば Right の勝ちとする.

このゲームは奇数個残る・偶数個残るという2通りの終了局面によって勝利判定を行っているため, 一見どちらのプレイヤーも同じ程度に勝てると思われる. しかし, 様々な集合 S について調べてみると, なぜか Left のほうが圧倒的に勝ちやすいことが分かった. 本公演ではそのような現象が起こる理由を説明する定理を紹介する. 例えば, 石が n 個の局面で Right が必勝戦略を持てば, 石が n±1 個の局面では Left が必勝戦略を持つことを証明する. 一方多くの S で, ある個数以上では常に Left が必勝戦略を持つという状況が起こる.

109(水) 1500 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室
荻沼 弘実 氏、篠田 正人 氏(奈良女子大学)
新たなゲーム LinkStones の提案と基本的な性質
2人のプレイヤーが交互の手番で盤上に石を置いていく新たなゲームを導入する。このゲームでは、まず先手は盤上の好きなマス1つに石を置き、その後の手番で各プレイヤーはすでに石の置いてあるマスに隣接する空きマスをいくつか選んで同時に石を置く。自分の手番で石を置ける空きマスがなければ負けとなる。

本講演の前半では、このように定義したゲーム(LinkStones)を長方形の盤面で行うときの勝敗の考察について荻沼が述べ、後半ではこのゲームを一般のグラフ上で行うときの基本的な性質といくつかの具体例について篠田が述べる。

712(金) 1620 分   於 広島大学理学部 A 棟 A210 号室 (曜日・場所にご注意ください)
内海 和樹 氏(立命館大学)
The Mordell-Weil lattices of an Inose surface arising from isogenous elliptic curves
$II^∗$ 型特異ファイバーを 2 個持つ楕円 K3 曲面は猪瀬曲面と呼ばれる. 猪瀬曲面はある直積型 Kummer 曲面の 2 重被覆として構成できることが知られており,従って,2 個の楕円曲線から構成できる. 猪瀬曲面の Mordell-Weil 格子は一般には自明だが,付随する楕円曲線の間に同種写像が存在すれば,その同種写像に由来する因子が楕円曲面としての切断となり,Mordell-Weil 格子は非自明になる. この楕円曲線間の同種写像に由来する Mordell-Weil 格子の元を Weierstrass 方程式の有理点として記述するための方法と具体的な計算例を紹介する. 特に, Cayley-Bacharach の定理によって同種写像の次数に制限なく計算できる方法を確立できたので, これまで知られていなかった次数 5, 6 の場合の計算例を紹介する.

711(木) 1620 分   於 広島大学理学部 A 棟 A202 号室 (曜日・場所にご注意ください)
Ivan Cheltsov 氏(University of Edinburgh)
K-stability of pointless del Pezzo surfaces and pointless Fano threefolds
In this talk we will discuss K-stability of pointless del Pezzo surfaces and smooth Fano 3-folds defined over a non-algebraically closed field of characteristic zero. This is a joint work in progress with Takashi Kishimoto (Saitama), Hamid Abban (Nottingham) and Frederic Mangolte (Marseille).

73(水) 1620(時間が変更となりました)   於 広島大学理学部 A 棟 A201 号室
De-Qi Zhang 氏 (National University of Singapore)
Algebraic and Arithmetic Dynamics via Equivariant Minimal Model Program
We report our recent progress via the Equivariant Minimal Model Program (EMMP) towards the algebraic and arithmetic dynamics: Kawaguchi-Silverman conjecture (KSC) about the equality of dynamical degree and arithmetic degree of an endomorphism of a projective variety, and the Zariski Dense Orbit conjecture (ZDO) of an endomorphism.

626(水) 1620(時間が変更となりました)   於 広島大学理学部 A 棟 A201 号室
山内 卓也 氏 (東北大学)
代数体$K$上定義された代数多様体$X/K$の中間次数の法$p$エタールコホモロジー $H^d(X/\bar{K},{\bf Z}/p{\bf Z})$, $d={\rm dim}X$に付随するガロア表現について:${\rm Aut}_K(X)$が豊富な場合.
素数$p$, 代数体$K$上定義された(非特異射影的かつ幾何的連結な)代数多様体$X/K$, および整数$0\le i\le 2d,\ d={\rm dim}(X)$に対して, $i$次の法$p$エタールコホモロジー$V_{i,p}:=H^i(X/\bar{K},{\bf Z}/p{\bf Z})$を考えることができる ($V_{i,p}$は有限次元${\bf Z}/p{\bf Z}$ベクトル空間である). 空間$V_{i,p}$には 代数体$K$の絶対ガロア群$G_K$が${\bf Z}/p{\bf Z}$線形に作用し, ${\bf Z}/p{\bf Z}$線形表現 $\rho_{X,i,p}:G_K\longrightarrow {\rm Aut}_{{\bf Z}/p{\bf Z}}(V_{i,p})$ を得る. ガロア対応により, この表現の核に対応する$\bar{K}$の固定体$K_{\rho_{X,i,p}}$は は$X$の対称性をある意味で計っているといえる.

本講演では, Xとして, 楕円曲線, Dwork族などのCalabi-Yau超曲面(族)を考えた場合 $X$の自己同型群の情報を援用して, 固定体$K_{\rho_{X,i,p}}$の数論的情報を 如何に抽出することが可能であるか説明する.

本研究は部分的に独立して, Alex Ghitza (メルボルン大), 都築暢夫氏(東北大) との共同研究に基づくこと付記する.