超一様点集合の改善

超一様点集合は準モンテカルロ法による数値積分に用いられる点集合であ り、点集合がよい性質を持てば、数値積分の精度を上げることができる。この ため、よい性質を持った超一様点集合を得ることが重要である。

超一様点集合の評価としてはdiscrepancyやstar-discrepancyという評価値が あるが、どちらも計算が複雑であるという問題がある。それに対して、デジタ ルネットという超一様点集合の一種においてはt-valueという比較的簡単に計 算できる値で評価をすることが出来る。

本研究においては、おなじくデジタルネットに対する評価値であり、t-value とは異なった計算により、より詳細にデジタルネットを評価することのできる Walsh Figure of Merit (WAFOM)という評価値を使って、既存のデジタルネッ トを改善できることを示す。

数値積分

関数を積分することは数学の一分野である解析学の領域であるが、関数が複雑 であったり変数が多い(次元が高い)場合に、積分の値を解析的に求めること が困難になることがある。その場合でも、擬似乱数を使ったモンテカルロ法に よって、積分値を近似的に求めることができる。モンテカルロ法による数値積 分では、近似精度を1桁上げるには、使用する点の数を100倍にする必要がある。

準モンテカルロ法は超一様点集合を使うことによって、モンテカルロ法よりも 少ない点の数で積分値のよい近似を得るための方法である。

デジタルネット

超一様点集合は、与えられた次元の空間に一様に分布する点の集合であり、 確定的に定められる点の集合である。

超一様点集合の一種であるデジタルネットは二進数を[0, 1)区間の実数とみ なすことによって、(二進)整数の性質から一様分布する点集合を生成する考 え方である。デジタルネットの評価値には (t,m,s)-netというものがあり、こ こでtは理想的な一様分布からのズレ、mは二進数の桁、sは次元の大きさを表 す。(t,m,s)-netのt値は0以上の整数となり、0が最も理想的な分布でtが大き くなるほど理想からズレていることを示す。理論上、t値は積分誤差の最大値を評価する。

実際に数値積分をすると、やはりt値が低いほど積分精度がよい傾向がある。 しかし、(t, m, s)の等しい点集合であっても、その積分精度には違いが あることが知られている。

Walsh Figure of Merit (WAFOM)

WAFOMもt値同様にデジタルネットの評価値であり、やはり理論上の積分誤差の最大値を評価する。 こちらはゼロ以上の実数で表される。 実際の積分においても、WAFOM値の小さい方が積分精度がよい傾向がある。 一般的な傾向としてはWAFOM値が小さいほどt値も小さいのであるが、 中には、WAFOM値が小さいのにt値が大きいという点集合が存在することがわかった。 そのような点集合においては積分精度もまた芳しくない。

デジタルネットの改善

t値とWAFOM値はまったく異なる計算にって得られるため、私たちは次のような改善方法を研究した。 t値を変えずにWAFOM値を変えるような点集合の変換を施すことによって、 既によいt値を持つ(t, m, s)ネットから、更によいデジタルネットを取得するという作戦である。 t値とWAFOM値の性質からこのような都合のよい変換は実際に可能であることがわかった。 多数の計算機を使った並列計算により、(二次元射影のよい)Sobol列とNiederreiter-Xing列という 二つのデジタルネットについて、WAFOM値のよい改善されたデジタルネットを計算によって取得する事ができた。

成果

以下のグラフは超一様点集合の数値積分を評価するためによく使われるgenz関数を使って 積分した場合の積分誤差(縦軸、2を底とした対数)と使用した点の数(横軸、2を底とした対数)を プロットしたものである。

変数の数(次元)が10の場合、Niederreiter-Xing列, Sobol列共にWAFOM値を低くすることによって 積分誤差が小さくなっている。 Oscillatory s=10

変数が30程度になると改善の効果は少なくなる。 Oscillatory s=30

変数の少ない場合(低次元)の積分では著しい改善が見られた。 Oscillatory s=3

変数が多い場合、積分する関数によってはWAFOM値が低い方が積分誤差が大きくなるという 逆転現象も見られる。 ProductPeak s=50

入手方法

研究成果として得られたデジタルネットはR用のパッケージとしてCRANで公開されている。 (LowWAFOMSobol, LowWAFOMNXを指定してR環境から直接インストールできる)