●●● 談話会 ●●●

2010年度

第1回 (印刷用はこちら

日時 : 5月11日(火),13:00 -- 14:00
場所 : 大学院理学研究科 B707号室
講師 : 佐久間 一浩 氏 (近畿大学理工学部)
題目 : 折り目写像のトポロジーについて
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 『微分位相幾何学(Differential Topology)』とは,微分可能多様体(differentiable manifolds)をその間の微分可能写像(differentiable maps)を用いて研究する分野です。
 古典的な基本問題を挙げると,微分可能多様体 M1, M2 が与えられたとき,次の2つは代表的なものです(J. Milnor, Differential Topology, in ``Lectures in Modern Mathematics II'', ed. by T. L. Saaty; Wiley, New York (1964), 165--183の冒頭より):

これらの問題をひとつの文に纏めると,次のようになります:
``微分可能多様体 M1, M2 が与えられたとき, M1 から M2 への `良い'写像が存在するか否かを判定せよ!''
`良い'写像をどのように定義するかによって問題の様子は異なってきますが,上では多様体の次元によって場合分けして,dimM1=dimM2 ならば,良い写像を微分同相写像に,dimM1<dimM2 ならば,はめ込み・埋め込み写像に設定しています。
 場合分けで欠落しているのが,dimM1>dimM2 のときで,問題は次のようになります:
``微分可能多様体 M1, M2 が与えられ, dimM1>dimM2 のとき, M1 から M2 への `良い'写像が存在するか否かを判定せよ!''
この問題の一番簡単な場合が M2=R のときで,良い写像の候補は,モース関数を除いて他には無いでしょう。しかし,問題の解はほぼ自明で,``任意の多様体について存在する'',となります。そこで,本講演では M2 が p次元ユークリッド空間 Rp で,p≧2 のとき,良い写像としてモース関数の拡張にあたる折り目写像を採用して,その定義と既存の結果や証明の方法論の背景,さらには私が最近得た結果などについて概説します。

第2回 (印刷用はこちら

日時: 6月8日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 久野 雄介 氏 (広島大学大学院理学研究科)
題目: 射影多様体に対するMeyer函数
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 Meyer函数は、曲面の写像類群のコホモロジーに関連する一種の二次特性類です。その起源は、1973年にW.Meyer氏により発見された、SL(2,Z)(=種数1の写像類群)上の群の1-コチェインにあります。これは、後にAtiyah氏によって詳しく研究され、写像トーラスのη-不変量、清水L-函数の特殊値など、SL(2,Z)の元から構成される種々の不変量と一致することが明らかにされました。また、Meyer函数によってファイバー構造を持つ4次元多様体の局所符号数を定義する、というアプローチが松本幸夫氏によって創められ、現在に至るまで、色々な人によっていくつかの高種数化が与えられています。
 この講演では、まず(一次)特性類の理論、および曲面の写像類群について簡単に紹介した後に、Meyer函数について説明し、その後、講演者の得たMeyer函数の新しい例:射影多様体に対するMeyer函数、のことについて述べます。

第3回 (印刷用はこちら

日時: 7月20日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 隠居 良行 氏 (九州大学大学院数理学研究院)
題目: 圧縮性Navier-Stokes方程式の解の漸近挙動
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 流体運動を記述する非線形偏微分方程式は偏微分方程式論におけるさまざまな興味深い問題を提供し,広く研究されてきた.この講演では空間多次元の圧縮性Navier-Stokes方程式の解の漸近挙動についてとくに平行流型定常解の安定性に関する最近の研究を中心に紹介する.

第4回 (印刷用はこちら

日時: 9月7日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 河内 明夫 氏 (大阪市立大学大学院理学研究科)
題目: アレクサンダー加群
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 (1変数)アレクサンダー加群は基本群を介して定義される位相不変量であり、アレクサンダー多項式はその不変量としてよく知られる。結び目・絡み目、仮想結び目・絡み目、曲面結び目・絡み目それぞれについて基本的役割を果たすが、多様体としての双対性に基づく性質が深い意味を持つことが多い。 本講演では、Blanchifield双対性、Milnor双対性、Farber-Levine 双対性の一般化になっている、講演者の以前に設立した3種類の双対性について説明し、それにより結び目・絡み目、仮想結び目・絡み目、曲面結び目・絡み目の加群としての違いを説明する。また双対性の新しい応用として、結び目・絡み目の交差交換によるアレクサンダー多項式の変化についての最新の結果についても報告する。

第5回 (印刷用はこちら

日時: 10月5日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 滝本 和広 氏(広島大学大学院理学研究科)
題目: On the removability of singular sets for solutions to fully nonlinear PDEs
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 複素関数論における次の結果はRadóの定理として知られている:
ΩをC の領域,f をΩ上の複素数値連続関数とする.このとき,f がΩ\f-1(0)上で正則ならば,f はΩ全体で正則である.
本講演では,完全非線形な2階楕円型・放物型偏微分方程式に対してもRadó型の除去可能性定理が成立することの解説を中心に,完全非線形偏微分方程式に対する特異点・特異集合の除去可能性定理に焦点を当て,それらに関する講演者の研究を紹介する.

第6回 (印刷用はこちら

日時: 10月26日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 中村 玄 氏(北海道大学大学院理学研究院)
題目: 散乱の逆問題と境界値逆問題の関係
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 散乱体が有界の場合には、それを内部に含む滑らかな境界をもつ有界領域における境界値逆問題を考えると、それが(多重波)散乱の逆問題と同等になることが知られている。ただし、この境界値逆問題の元になる順問題(即ちこの有界領域における波の伝搬を記述する方程式に対するDirichlet境界値問題)が適切であることを仮定する。それぞれの逆問題の計測データは、(多重波)散乱の逆問題については、全ての入射方向から入射した平面波に対する散乱波の遠方場であり、境界値逆問題については前述のDirichlet境界値問題のDirichlet dataに対して、解のNeumann dataを対応させるDirichlet-Neumann写像である。同等性の証明は幾つか知られているが、ここではLiu-Wangによる簡明な証明を紹介する。これは、Liu-Cheng-Nakamuraによる証明を改良したものである。

第7回 (印刷用はこちら

日時: 12月21日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 木村 俊一 氏(広島大学大学院理学研究科)
題目: K環を使って無限を数える
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 人類最古の数学上の発見は、1, 2, 3, ... という数の発見であった。これは有限集合の圏におけるK環として整数環を定義したものだと解釈できる。圏に「自然な」加法、乗法が定義されるならば、その圏の対象の「大きさ」をK環でのクラスとして測ることができる。この直感はあまりに自然なものであるため、カントールが無限集合を定義し、そこでK環を考えると零環になってしまう、という発見をした時に一大スキャンダルになってしまうほどであった。
 無限集合に構造を入れないとK環が消えてしまうが、何か構造を入れると意味のあるK環があらわれて、その対象に対して面白い不変量を定めることができることがある。例えば良い位相空間の圏のK環は、そのオイラー数を対応させることで整数環Zへ自然な写像ができる。位相空間のK環そのものは大変複雑だが、K環に適切な同値関係を入れることでK環の同値類そのものがZと同型になるようにできる。
 K環を使って対象の大きさを測るもうひとつの方法として、ゼータ関数がある。ゼータ関数とは、対称積の形式和 Σn≧0[Symnx] tn を、K環係数のベキ級数とみたものである。有限集合Xのゼータ関数は有理式となり、その分母の次数がXの元の個数と一致する。位相空間や有限次元ベクトル空間のゼータ関数も、適切な同値関係のもとでやはり有理式になる。
 代数多様体のK環は複雑であり、素朴な同値関係を入れると1次元ではゼータ関数が有理式となるが、2次元以上では一般には有理式とならない。代数多様体に対しては、「Universal なコホモロジー理論」であるモチーフを取ることができて、モチーフのK環で考えるとゼータ関数が有理式になることが予想されている。有限体上の代数多様体のモチーフに対し、「その点の個数を数える」というZへの写像を定義できるが、そのZ係数での有理性はDwork が示しており、これはWeil 予想の一部分でもある。
 代数多様体の対称積は、Chow 多様体とよばれるものの0次元の場合であるが、Chow 多様体の1次元以上のものも、形式和を考えて、K環係数の多項式と考え、有理式かどうかを問うことができる(ゼータ関数の高次元化)。共同研究者の J. Elizondo 氏が、K環でなくオイラー数を係数に取ってベキ級数にするといくつかの場合に有理式となることを示していたので、モチーフのK環係数でも当然有理式になるだろうと予想して研究を始めたが、意外にもそのままでは有理式にならないことがわかった。一方、A1-ホモトピーという同値関係を入れることでトーリック多様体などの場合に有理性が証明できた。

第8回 (印刷用はこちら

日時: 1月11日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 竹内 潔 氏(筑波大学大学院数理物質科学研究科)
題目: モチヴィックミルナーファイバーとニュートン多面体
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 複素超曲面のミルナーファイバーの(ミルナー)モノドロミーは、多くの研究者により研究されてきた。特にその固有値に関しては、Varchenko らによる美しい公式が知られている。ミルナーモノドロミーは、Gauss-Manin接続という常微分方程式や Bernstein-佐藤多項式、局所ゼータ関数、結び目の理論とも深く関係している。本講演では、ミルナーモノドロミーのジョルダン標準型が複素超曲面の定義多項式のニュートン多面体を用いて幾何学的に記述できることをお話しする。すなわち、Denef-Loeser がモチヴィックゼータ関数の理論を用いて導入したモチヴィックミルナーファイバーの混合 Hodge 構造を調べることで、ジョルダン標準型が決定できる。このような計算が可能なことの技術的背景には、斉藤盛彦による混合 Hodge 構造を担った D-加群の理論、すなわち混合 Hodge加群の理論がある。この方法は、ミルナーファイバーのような局所的な対象だけでなく、多項式写像の大域的なファイバーのモノドロミー(いわゆる「無限遠点におけるモノドロミー」)の決定にも有効である。また完全交叉代数多様体の上のミルナーファイバーの場合にも同様の結果が得られる。以上のような、ミルナーファイバーのモチーフの世界における輪廻転生(=生まれかわり)と多項式のニュートン多面体の幾何学の関わりについて、できるだけ平易な言葉を用いて、お話しする予定である。本研究は、松井優氏およびEsterov 氏との共同研究である。

第9回 (印刷用はこちら

日時: 1月18日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 宮路 智行 氏(京都大学数理解析研究所)
題目: On pulsative solution to the Lugiato-Lefever equation
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 Lugiato-Lefever方程式と呼ばれる散逸項と入力場を伴う三次の非線形Schrödinger方程式を考える。光共振器におけるパターン形成のモデル方程式である。これはパルス状の定常解を持ち、複数のピークを持つ安定・不安定な定常パルス解が共存しうることが数値計算で知られている。我々はパルスの枝芽と考えられる解が分岐しうることを証明した。また、加法的ノイズを含む問題を定式化し、安定定常解のノイズに対する安定性についての考察を紹介する。本講演は大西勇准教授(広島大)、堤誉志雄教授(京都大)との共同研究に基づく。

第10回 (印刷用はこちら

日時: 1月25日(火),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: 藤澤 洋徳 氏(統計数理研究所)
題目: 外れ値の割合が大きい場合にもバイアスが小さいロバスト推定
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 In this talk we consider the robust parameter estimation based on a certain cross entropy and divergence. The robust estimate is defined as the minimizer of the empirically estimated cross entropy. It is shown that the robust estimate can be regarded as a kind of projection from the viewpoint of a Pythagorian relation based on the divergence. This property implies that the bias caused by outliers can become sufficiently small even in the case of heavy contamination. It is seen that the asymptotic variance of the robust estimator is naturally overweighted in proportion to the ratio of contamination. One may surmise that another form of cross entropy can present the same behavior as that discussed above. It can be proved under some conditions that no cross entropy can present the same behavior except for the cross entropy considered here and its monotone transformation.

第11回 (印刷用はこちら

日時: 3月16日(水),13:00 - 14:00
場所: 大学院理学研究科 B707号室
講師: Zbigniew Palka 氏(Adam Mickiewicz University)
題目: Teaching thinking -- an algorithmic approach
Tea Time: 14:00 --
要旨:
 Critical thinking can be said to be an undoubtedly important skill at university. Students who develop critical thinking skills are better able to acquire and create the store of knowledge and thus become less dependent on teachers. This talk shall attempt to present that it is possible to develop critical thinking skills in situations where little knowledge of the problem is required, sharing experience acquired during teaching courses in algorithmics for undergraduates of various majors. The main objective is to show that a simple algorithmic approach could be a good teaching tool to show students how to think critically. In the first step, students have to construct as a rule, a very simple algorithm that solves a given problem -- mostly without greater mental effort. In the next step, the teacher asks relevant questions to encourage students to think critically in order to modify their first algorithmic solution.

2009年度以前


Date: 2011.1.18
談話会委員 西森, 木村, 木幡, 高橋

大学院理学研究科数学専攻