●●● 談話会 ●●●

2019年度

第1回

日時: 5月 28日(火)13:00−14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 中野 張 氏 (東京工業大学情報理工学院)
題目: 確率偏微分方程式の数値解析
Tea Time: 14:00−
要旨:確率偏微分方程式(SPDE)は決定論的な偏微分方程式にランダムな摂動を加えたものであり,物理や確率制御,ファイナンス,人口動態など,多くの分野に現れる.一般にこれらのSPDEは解析解を持たないため,定量的な分析には数値解の構成が不可欠だが,有効な数値解法が十分に提案されているとは言えない状況である.本講演では,SPDEに対し,再生核補間に基づく新しい数値解法を紹介し,フィルタリングにおけるZakai方程式と金利モデルにおけるHeath-Jarrow-Morton-Musiela方程式を対象に,誤差解析結果及び数値例を示す.

第2回

日時: 6月 18日(火)13:00−14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 安井 弘一 氏 (大阪大学大学院情報科学研究科)
題目: 4次元多様体の微分構造と幾何学的単連結性
Tea Time: 14:00−
要旨:多様体の微分構造の分類は、トポロジーにおける最も基本的な問題の一つである。4次元はこの問題に関して最も謎が多く興味深い次元である。本講演では、まず4次元多様体の研究の概観を紹介する。次に、4次元多様体の幾何学的単連結性と微分構造との関係について、講演者の研究を含むいくつかの話題を紹介したい。ここで多様体が幾何学的単連結であるとは、1ハンドルのないハンドル分解を許容するときをいう。

第3回

日時: 6月 25日(火)16:00ー17:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 田崎 創平 氏 (理化学研究所・生命機能科学研究センター)
題目: ニワトリ胚中胚葉細胞集団の動的な移動秩序形成
Tea Time: 17:00ー
要旨:ニワトリ胚の中胚葉組織は、胚の内側に陥入した間充織細胞がエピブラストと内胚葉の間の空間を広がっていくことで形成される。しかし、足場の限られた3次元空間内の細胞移動様式を含め、中胚葉形成機構の詳細は不明な点が多い。我々は、透明化や高解像度の3次元ライブイメージングにより、中胚葉組織内において細胞同士がN-cadherin等の接着分子により3次元的に相互作用することによって特徴的な秩序形態を呈し、前側および外側への集団運動を実現していることを見出した。特に、細胞集団の移動形態は特徴的な網目状構造を示し、各々の網目は動的に構成細胞の入れ替えが起きながら、協調的な細胞集団運動が行われていることが分かった。我々は、トラッキングを含む細胞集団画像解析データを元に、パーシステントホモロジーなどの位相的データ解析と、時空間ウィンドウ可変な統計的解析を組み合わせた、マルチスケールなデータ解析手法を構成した。これにより、細胞集団の形態とダイナミクスの定量的特徴づけを行った。さらに、N-cadherinの機能を阻害する変異体を構成し、変異体を発現した細胞集団と正常細胞集団の比較を行った。その結果、変異体発現細胞集団では移動秩序が乱れ、集団平均速度の低下などが見られた。また、高解像度ライブイメージングによりN-cadherinによる細胞間相互作用を調べたところ、ある種の細胞遊走接触阻害が確認された。この観察に基づいて数理モデルを構築し、シミュレーションを行って実験と同様のデータ解析を行ったところ、細胞集団の位相的構造や移動秩序、平均速度の変化が再現された。以上により、本研究は中胚葉形成ダイナミクスの一部を説明することに成功した。今後の展開として、自動データ解析と自己進化型数理モデルを連動させた、現代的な自動解析系の可能性を述べたい。

第4回

日時: 7月 16日(火)13:00ー14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 藤井 雅史 氏 (広島大学大学院統合生命科学研究科)
題目: 血糖値制御モデルを用いた血糖値が上がりにくい糖摂取パターンの考察
Tea Time: 14:00ー
要旨:糖は生命維持において重要なエネルギー源である。食事によって糖を経口摂取すると、糖は小腸から血中へと吸収され、血糖値が上昇する。通常であれば、膵臓から分泌されるインスリンの作用によって血糖が各臓器に取り込まれて血糖値は減少する。しかし、食後の血糖値が過度に上昇すると、糖尿病患者でなくとも大血管障害のリスクが高くなる。そのため、食後の過度な血糖値の上昇をさせない食事方法が望まれる。しかしながら、食後の血糖値を制御する時間的な食事摂取パターンの論理的な設計方法はまだ確立されていない。  そこで本研究では、健康な3人の被験者において、被験者ごとに経口糖摂取による血糖値制御の数理モデルを構築し、1時間以内に50 gの糖を摂取するという条件のもと、最大血糖値を最小限に抑えるための糖摂取の時間的なパターン(血糖値最小化パターン)を予測した。その結果、血糖値最小化パターンは、30分間隔で間欠的に摂取することを予測し、実際に検証実験において、糖のBolus摂取(一気飲み)やContinuous摂取(1時間かけたゆっくり飲み)よりも最大血糖値が低いことを確認した。 また、同様に糖摂取後の最大インスリン値が最小限になるようなインスリン最小化パターンも予測し、この場合も30分間隔の間欠的な摂取が最適であり、血糖値最小化パターンと同様であることを見出した。したがって、これらの結果は、最大血糖値の最小化が、インスリン濃度を高めることだけではなく、最大インスリン値を抑制することによっても達成されることを示唆している。  このアプローチは、最適な食事摂取パターンの設計のみならず、任意の出力パターンを実現するための入力パターンの予測にも適用することが用可能性や、メカニズムに関する点についても議論したい。 参考文献:M. Fujii, Y. Murakami, Y. Karasawa, Y. Sumitomo, S. Fujita, M. Koyama, S. Uda, H. Kubota, H. Inoue, K. Konishi, S. Oba, S. Ishii, S. Kuroda, bioRxiv (2018) (https://www.biorxiv.org/content/10.1101/352955v1)

第5回

日時: 7月 23日(火)13:00ー14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 山澤 浩司 氏 (芝浦工業大学デザイン工学部)
題目: q-アナログにおける差分-微分方程式の形式解の総和法について
Tea Time: 14:00ー
要旨:今回の談話会では学部生も参加するということで、q-アナログ の差分-微分方程式について 例を使いながら入門的な話題を提供し、 その後の集中講義の導入的な役割を目的とする。そこで次の順に話を進めていく。 まずは微分方程式において
1. オイラー作用素について
2. 形式解が収束する場合について
3. 形式解が発散する場合について(Gevrey 評価,Borel 総和法)
話しを進める。その後、
4. 微分方程式のq-差分化について
5. 1~3 に対応するq-差分-微分方程式の結果
を紹介する。また、それぞれの事項において参考になる論文も紹介をする。

第6回

日時: 10月 1日(火)13:00-14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 藤森 祥一 氏 (広島大学理学研究科)
題目: 完備極小曲面の全曲率
要旨:Euclid空間内の完備極小曲面の全曲率は、ある不等式を満たすことが Ossermanによって1960年代に示され、さらにこの不等式の等号成立条件も 1980年代にJorge-Meeksによって示されている。 この講演では、この不等式と等号条件について、具体例を多く紹介しながら解説する。 また、この話題に関連して、佐賀大学の庄田敏宏氏との共同研究で得られた結果も紹介したい。

第7回

日時: 11月 5日(火)13:00-14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 石井 亮 氏 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
題目: Exceptional collections on the Hirzebruch surface Σ_2
要旨:代数多様体上のベクトル束のうち,自己準同型がスカラー倍しかなく,高次の自己準同型が全て消えるものを例外ベクトル束(exceptional vector bundle)と言う.射影平面上のベクトル束のモジュライの研究に端を発する概念である.この定義は,そのまま導来圏の対象(層の複体)に拡張される.導来圏が例外生成列を持つような代数多様体は非常に特殊なものであるが,例外生成列全体の集合には組み紐群が作用するなど,興味深い構造を持っている.射影平面などの場合はベクトル束だけを扱えばよいが,表題にある曲面上の場合は,ベクトル束だけでなく,層の複体を扱う必要がある.この場合についての大川・上原両氏との共同研究の内容を交えてお話ししたい.

第8回

日時: 2月 4日(火)13:00-14:00
場所: 広島大学理学部B棟7階B707教室
講師: 河備 浩司 氏 (慶應義塾大学 経済学部)
題目: Central limit theorems for non-symmetric random walks on nilpotent covering graphs
要旨:ベキ零群を被覆変換群とするような有限グラフの被覆グラフのことを ベキ零被覆グラフと呼ぶ。結晶格子(被覆変換群がアーベル群の場合)上の ランダムウォークに関してはすでに多くの極限定理が, 砂田-小谷による 離散幾何解析の枠組みで得られている。本講演では, これらの研究の延長と してベキ零被覆グラフ上の非対称ランダムウォークの中心極限定理を考察し, スケール極限として捉えたベキ零Lie群値拡散過程にランダムウォークの 非対称性からくるドリフト項が現れること, またこのドリフト項がベキ零被覆 グラフの実現写像のambiguityによらずに定まることを話す。時間があれば, ラフパス理論との関連についても触れたい。 本講演の内容は、石渡 聡 氏 (山形大学) および 難波 隆弥 氏 (立命館大学) との共同研究に基づく。

2018年度以前


Last Update: 2020.1.23
談話会委員 藤森, 作間, 高橋, 李, 伊森

大学院理学研究科数学専攻